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登録機関となったのは、銀行などの金融機関である。
この法律は、もともと、戦時体制下で、券面作成に必要な紙を節約し、移動や保管の手間を省くといった趣旨から制定されたものである。
一見、革新的な制度のようにも思えるが、実際には、登録簿の記減内容を変更するための手続きが面倒である上、一五○にも上る登録機関が存在しながら互いの連絡がないなど問題点が多く、逆に、社債の流通市場発達の大きな妨げとなってきた。
そこで、一九九五年以降、旧大蔵省の「社債受渡し・決済制度研究会」において、制度改革へ向けた検討が開始された。
この結果、翌一九九六年には、登録機関をオンライン・ネットワークで結んで移転登録手続きを効率化する「株式会社債券決済ネットワーク」、通称「JBネット」が設立され、一九九七年末にはネットワーク・システムが稼働した。
これで、社債流通をめぐる制度環境は若干改善されたが、社債等振替法の制定により、更に本格的なペーパーレス化が可能となったことが、今後、市場の拡大に寄与することが期待されている。
これに対して、株式については、社債やCPとは異なり、議決権という共益権の部分があることから、振替制度における誤記載などによって投資家に損害が及んだ場合の処理が難しいといった課題がある。
このため、証券保管振替機構における不動化までは進んだものの、そこから更に一歩踏み込んで無券面化を実現するための検討は遅れていた。
それでも、世界にはフランスのように、一九八○年代から株式の無券面化を実現している国もある。
わが国においても、法制審議会を中心に精力的な検討が進められ、二○○三年秋の臨時国会での法案(商法改正案)提出、二○○四年春の改正法施行という日程が現実味を帯びてきている。
株式の決済に関しては、ペーパーレス化の検討に加え、これまで各証券取引所、株式店頭市場と市場ごとにバラバラだった清算機関の統一化も進められた。
二○○二年七月には、日本証券クリァリング機構が設立され、翌年一月から、証取法に基づく証券取引清算機関としての業務を開始した。
清算機関の統一は、取引参加者のコスト削減につながり、市場の活性化にも資するものと期待されている(519)。
もっとも、統一清算機関の設立をめぐって、取引高シェアに応じた出資割合を主張する東証と均等の出資割合を求める大証の対立が深刻化するなど、当事者の間での足並みの乱れもみられた。
証券決済制度は、市場の共通インフラではあるが、他方、先に述べたように、一国の市場の競争力を左右する要素でもある。
国内においても、市場運営者がビジネス志向を強め、市場間競争が激化している現在、証券決済制度を自市場の競争力維持、強化の武器として活用したいという思惑が渦巻いていることも見落としてはなるまい。
このように、一九九○年代後半以降の証券決済制度改革の進展ぶりはめざましい。
IT時代にふさわしい高度な市場インフラの整備が着々と進んでいると言ってよい。
しかしながら、市場インフラの整備は、あくまで資本市場発達の必要条件であって、十分条件ではない。
ペーパーレス化して発行コストを若干引き下げただけで、ある証券の発行市場が急拡大するわけではない。
証券決済制度改革の意義を評価する上では、そうした冷静な視点を持つことを忘れてはならないだろう。
わが国の証券取引規制は、戦後の証券取引法制定以来、投資判断に必要な情報の開示(ディスクロージャー)を義務づけることで、投資の結果に対しては投資家の自己責任を求めるという考え方に基礎づけられたものとなっている。
証券市場における取引は、詐欺やインサイダー取引、相場操縦といった不公正な手段を用いない限り自由であり、誰でも取引に参加することが可能である。
一方、企業など証券発行主体の側からすれば、適切なディスクロージャーさえ行えば、自由に証券を発行し、流通させることができる。
しかしながら、かつては、こうした自由度の高い仕組みはあくまで一つの建前に過ぎず、実際には、証券発行の可能な主体を制限したり、特定の証券に投資できる主体を制限したりするといった、統制色の強い規制が行われることが少なくなかった。
その最も顕著な例は、前触れた、起債会による適債基準に代表される社債市場における統制であろう。
かつての社債は、発行そのものが統制されたことに加えて、額面金額を大きくすることで個人投資家が事実上購入できないようにするといった措置も講じられていた。
一九八○年代半ばまでは、「公募市場育成」を名目として、私募債は一回の発行額を二○億円未満に制限するとか、一度公募債を発行すると、その後は私募債を発行できなくなるという「ノー・リターン・ルール」を設けるといった規制も行われていた。
また、CP市場や証券化商品市場の整備に際しても、社債の場合と同じように、発行主体の資格を制限したり、額面を一定金額以上に限って個人投資家の投資を妨げたりするといった統制的な規制が行われた。
社債やCPの市場に比べれば、相対的に自由度の高い市場であった株式市場も、前触れたように、厳しい上場基準を満たさない企業は、公募増資が行えないという仕組みが長年にわたってとられるなど、法の原則から元離した現実があった。
証取法の規定から言えば、有価証券届出書を提出して情報開示を行った企業は、取引所の上場基準を満たしていなくとも、株式の公募が行えるはずである。
ところが実際には、一九八四年五月、サンコーが店頭登録時に公募増資を行ったのが、非上場企業による公募増資の初めての例である。
その後も、赤字企業は、たとえその事実を開示したとしても、株式を公開できないという状況が、一九九五年七月の店頭特則市場開設まで一○年以上も続いたのである。
このように、法律の建前から大きく花離した統制が、長年にわたって行われてきたのは、わが国の政策当局者、有識者の多くが、証券市場制度の基礎をなすディスクロージャーの仕組みに対して、頭の中では理解をしつつも、本音のレベルでは、根深い不信感を抱いていたためではなかろうか。
つまり、多くの当局者、有識者が、いくらディスクロージャーを充実させても、しょせん個人投資家には判断能力がなく、投資家と市場の仲介者として位置づけられている証券会社や投資顧問会社も、現実には投資家を食い物にするだけであり、リスクのある投資機会そのものを少なくすることこそが投資家保護の正しい方策である、と考えていたのだと思われる。
そうした見解が、表立って主張されることはほとんどなかったが、金融ビッグバンを経た現在でも、実は、内心そうした見方に共感している人が少なからず存在するように感じられる。
その一つの典型例は、取り上げた「株価対策」である。
もっとも、念のために断っておくと、空売り規制の強化から公的主体による株式の買い取りに至るまで、繰り返し打ち出される「株価対策」は、初めから投資家保護や市場の秩序維持などを目的とするものではなく、金融システムの安定化やデフレの解消を主眼とした「経済政策」であると認識されているという点で、過去の統制的規制とは、やや性格が異なっている。
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